言わば、もしくは(2)








自分の弁当を目を輝かせて頬張ってくれる恋人に幸せな気持ちになりながら箸を進めていると、

そんな僕たちを知ってか知らずか響く館内放送。


「!!くそ、マジかよ…」


せっかくの昼飯くらいゆっくり食べさせろよ、と賢木が毒づく。

仕方がないよと僕も笑うけれど、気持ちは同じだ。

折角のお昼なのに、正直ありがたくないコール。

多分その指示に従えば、しばらく帰れないことは目に見えている。


「なぁ、無視しねぇ?せめて食べ終わる時間までは」


僕の方を懇願の眼差しで見つめる賢木に、僕は首を振る。


「そうしたいけど…どんな重要な用事か分からないから」

「ま、そらそうだけどさ。ちっくしょ、何かの苛めかっ?!」

「拗ねるなってば。出来るだけ早く帰ってくるから」

「絶対だからな?あんまり遅くなったらぜってー迎えに行く」


高らかに決意を述べる賢木に思わず苦笑しつつ、僕は立ち上がる。

とりあえず呼び出しが僕だけだったのは、一応セーフライン。

賢木まで呼び出しだったら、折角昼用に作った弁当の意味が無くなる。


「じゃあ、行ってくるよ」

「ああ、分かった。半分残しとくから」

まだ残念そうに僕を見つめる恋人の笑顔に和みつつ、僕は賢木の部屋から出たのだった。







すいません、と頭を下げる柏木さんにいえいえと首を振りつつ僕は管理官の部屋まで急ぐ。

急な呼び出しは日常茶飯事だが、こんな時間に呼び出されるのは珍しい。


「何かあったんですか?」

今日の召集の理由を問う僕に、彼女は

「さぁ。本当に私にも分からなくて。局長も知らないらしいので何がなんだか」


…柏木さんにも隠しておきたいほどのトップシークレットなんだろうか。


緊張の所為で喉が乾いていくのをなんとか我慢しつつ、ひたすら目的地まで進んでいく。

「あ、そういえば」

柏木さんが思い出したように声を上げた。


「はい、なにか?」

「今日、お重を持ってきたってチルドレンが言っていましたよ。食事の途中だったんでしょう?」

「ええ、まぁ…」


温和な微笑を浮かべてそんなことを言われると、ついつい言葉に詰まるのは何故だろう。

別におかしなことを聞かれたわけじゃないのに。

思わず声が裏返りそうな僕に柏木さんは、


「賢木先生とお食事中だったんじゃないですか?すいません、大事な時間を邪魔しちゃって」

「!!!っ、な、なんでそれを…っ!!」

「え、あの子達が騒いでましたから。“賢木先生に独り占めされる”って…」


にっこりと笑う彼女の前では、下手な隠しごとなんて何も出来ない気がする。

「はは、は…アイツらそんなこと、言ってたん、ですか…」

誤魔化し笑いを浮かべながら、チルドレンに後で説教しようと心に決めた瞬間。

「賢木先生、気分を害して無いといいんですけどね」とため息交じりに呟かれ、

ますます彼女の底知れなさに僕は背筋を凍らせた。


「な、なななっ!!!」

「怒っている先生の姿が目に浮かぶので、なるべく早く現状に戻れるように私も協力しますから」


そう言葉を重ねられて、一体どう反応すればいいんだろう。

確かに早く帰りたい。早く帰って昼食を再開したい。けれど。

「…柏木さん、一体…」

「はい?」



僕たちの何を知ってるんですか、なんて。

聞きたいけど、聞いたら色々と打ちのめされそうな気がするから。


「……っ、あの、スイマセン、お願い、します…」

柏木の言葉に返事を返しながら、僕はまるでエスパーのような彼女の洞察力に激しく動揺したのだった。




続く