隠し味は秘密。






賢木の部屋から帰ってきてからというもの、どうもそわそわしぱなしの僕は、
チルドレンが言う「幸せオーラ」を隠せていない、らしい。

らしい、というのはまるきり自覚がないからで、普段と同じだと何度言い聞かせても
彼女達は首を横に振るのだ。


「もう十回目ね」

「いやもう、エア確認合わせたら…二十はカタいわ」

「何なんだよ、さっきからうっとうしーっつーの!!」


上手く揃った反応で僕を非難する彼女達が、何故そんなにムキになっているのか自分ではさっぱり分からない。

「そんなに可笑しいことでもしてるのか?」と質問すると彼女達はやれやれと言いたげな表情を浮かべた。



「無自覚なのね、まぁそうだとは思ってたけど」

「そんなに視線を上下させてオカシイと思わないのがオカシーんだって!!」

「それはまぁ、幸せオーラの所為やろ」

「だから、一体なんのことだ?」

「「「腕時計見る回数」」」

「………えっ…?!」



そんなに、時計見てたっけ?

確かに気にしてたのは気にしてたけど、まさか3人に指摘されるほどの多さだなんて。

言われて気づく自分の浮かれ具合に、穴があったら入りたいほど恥ずかしい。

「なんかええことでもあるのん?なんて、分かっとるけどな」

「聞くだけ野暮だし、ノロケなんて聞きたくないわね」

「くそ!!アタシ達の皆本が汚される!!」



あンのヤブ医者!!


怒りの矛先を決めたらしい3人に、僕はふと疑問に感じたことを聞いた。

「…どうして僕の様子がおかしいことを賢木が原因だと決め付けるんだ?」

「どうしてって…そら、ウチらが逆に皆本はんに聞きたいねんけど」



もしかして、バレてないと思ってるん?



きょとんとした表情で聞き返してくる葵に、僕は首を傾げた。

「だから、何がバレてないって?」

「駄目よ、葵ちゃん。今日の皆本さんはマトモに会話なんて出来ないから」

溜息をついて、葵を諭すのは紫穂だ。

「ああ、そやなぁ。いつもならもうちょい気づくの早いねんけど」

「無理よ、求める方が間違ってるもの」

僕の方を見ながら会話する二人の肩の上になんだか哀愁のようなものが見える気がする。

そんな二人の会話の間へ強引に滑りこんできたのは薫の声で。

「てかさ!!今日の朝随分早起きして、弁当作ってただろ!!」

二人の会話の中に入れずにイライラしていた薫が放ったのは、僕にとって結構な爆弾発言だった。

「!!!っ、どうして、それを…っ!!」

「あ、薫のアホ!言わんでもええことを…」

「そうよ、私達が見てたことバレるじゃない!!」

二人の反応に、ようやく事の次第が飲み込めると同時に。

「……見てたのか」

僕がいつもより1時間も早く起きて、弁当作ってたこと。しかも時折鼻歌歌っていたことも、多分見てたんだろうな。

「う、ゴホン…その時起きてたんなら、言ってくれれば」

恥ずかしさを堪えつつ、そう3人に言うと。

「だって、なぁ」

「うん、せやかて」

「とてもじゃないけど、入れる空気じゃなかったもの。私たちだってそれくらいの配慮あるわよ」

「?????」



顔を見合わせる3人に僕はまた隠し事をされた気がして。

「なんでだ?別に来たって問題ないのに」

「「「だから、それが幸せオーラなんだってば」」」

「?????」



確かに賢木の喜んでくれる顔が見たくて、品数を増やそうと頑張っていたけれど。

そのことと、その単語と何の関係が?



「…駄目だこりゃ」

「一日中、こんな激可愛な皆本はんと一緒なんは、逆に拷問やって」

「……あのヤブ医者」



ここにはいない賢木に向かって、再開したグチに僕はやれやれと息をつく。

どうやらとばっちりが確実にいきそうな恋人に向かって、僕は心の中でゴメンと謝ったのだった。



終わり