ピロートーク






ようやく取れた二人一緒のオフ。

仕事場から強引に俺のマンションにお持ち帰りすると、

いつものかたくなさが冗談に思えるほど皆本は素直に従ってくれた。

こんな幸運はそうそう起こることじゃなく、期待を込めて彼を見つめれば、

照れ臭そうに視線を外す様が何とも艶めかしい。

すっかりボルテージが上がり、にやける顔を自分自身自覚すると、「顔崩れすぎ」と流石に注意された。


だって仕方ないだろう。

それに皆本だって、何もしていないうちから頬が林檎みたいに赤い。



「あせらなくても僕は逃げないから」

だから、離して、と焦った声で俺の腕から逃げようとする皆本。

けれども、一瞬の間すら体に馴染んだこの愛おしい温もりを離したくはなくて。

「やだね。勿体ねぇ」

「我儘言うなよ。背広皺になるの嫌なんだ」

几帳面な皆本らしい台詞に、降参のつもりで片手を上げる。

「色気が無いぜ?もっと上手い言葉ってねぇのかよ」

「そんなの僕に期待されても困る」

上手い言葉って、どう言えばいいんだろうとうんうん悩む律儀な恋人が可愛くて仕方ない。

「冗談だよ、冗談。脱いだら来な。我慢できなくて死にそう」

早く俺を救いに来てくれ、と半ば本気で言葉を紡ぐと皆本はぷっと吹き出した。

「オーバーだな。分かってる、そんなに待たせないから」

「オーバーじゃなくて、マジだって」

言葉遊びのようなやりとり。けれど、まごうことなく今言ったことは本心だ。

いつだって、性急に求めたくなる気持ちをこうやってなんとかオブラートに包んで。

今頭の中で考えている妄想を余すところなく伝えたら、皆本は多分憤死のあまり声を無くすだろうから。



「待ってるから、早く来い」

伝えても許されるギリギリのラインで、皆本に想いを吐露すると。

軽い接吻とともに、彼の困ったような、恥ずかしそうな笑顔が俺の視界に飛び込んできた。

「皆本…」

「本当に、すぐ行くから」

普段は純粋な色を秘めたその瞳が、確かに情欲に潤んでいるのを確認して俺は嬉しくなる。

皆本の気持ちを雄弁に表すその瞳は、確かに俺と同じ気持ちでいてくれることを明確に伝えているから。


「じゃあ、な?」

「うん…」

こくりと頷く皆本の、シャツから隠れない部分全てが食べ頃を示すピンク色。

そそりすぎだろ、と思わず零れるイヤラシイ笑みを隠し、俺は寝室へと向かった。




簡単にベッドメイキングを終える頃。

当初の言葉通り、皆本がパジャマ姿で入ってくる。

「み、っなもと〜♪」

「!わぁっ!!」

飛びかかってベッドに押し倒すと、彼は俺の勢いを流しきれず、ベッドの上にひっくり返った。

「ちょっと、びっくりするだろっ!!」

「わり、だって久々だから、すっげ興奮しててさぁ」

「そりゃ、そうだけど…むぐっ!」

煩いことを言うその唇をキスで封じ込めると、それが合図。

角度を変えて、唇の柔らかさを味わいつつ啄ばむと鼻から漏れた皆本の呼吸が俺の鼻先を擽る。

しっとりと濡れた弾力のある柔らかさ。

くせになる感触を堪能しつつ、息苦しさにわずかに空いた彼の口へ舌を滑り込ませる。

口蓋の部分をノックするように辿りながら歯列を巡り、たどり着いた彼の舌を自分のものに

絡ませては吸い上げると、腕の中の存在がその都度無意識の反応を返してくる。

「ん…っ、んぅっ…」

言葉にならない声を洩らして、必死に俺に縋り付こうとする皆本。

お互いの唾液が唇を濡らし、飲みきれなかった雫が口角を伝ってシーツに零れる。

息を飲んで凝視したくなるほど淫靡な光景が脳内に焼き付いて離れない。

多分しばらくは夢に出るに違いないソレは、何とも贅沢な映像で。



腕の中の皆本が完全に力を抜いたのを見計らって名残惜しげに唇を離すと。

息を整えようとはふはふと深呼吸を繰り返す皆本の物慣れなさがますます俺の理性を刺激する。

「そんな、精一杯だったのか?」

「!!誰のせいだと…!!」

「ああもう、怒るなって。大体皆本もノってたじゃん。可愛かったぜ?」


そういうと、皆本はぐっと言葉に詰まって。

それから、デリカシーが無いともごもご呟いた。


まだまだ皆本は、情事のなんたるかが分かってねぇよな。

場を盛り上げる睦言に過剰反応するなんてまだまだ甘い。

そういうこと言った方が燃えるって、実地で分からせないと。

夜はまだまだこれからが本番だから。



まぁ今日のところはほんのさわりにしておくか、とばかりに俺はちゅっと唇を再度吸う。

優しい感触に落ち着いた皆本の体を俺はゆっくり味見し始めたのだった。




終わり?