ワガママ



ああ、そんな表情なんてさせたくないのに。

「ごめん」なんて、そんな言葉は聞きたくないのに。


今さら何を言っているんだと、自分の内部で声が反響している。

『自分のことで困ってくれる彼が好きで仕方ないんだろう?』

『いつも誰かのために生きている彼の、貴重な時間を一分でも欲しいんだろう?』


そんなつもりじゃない、ただ我儘を言いたくなっただけだ。



『それが、執着なんだろう?』 



度を越した自分勝手。そんなの自分が一番良く知っている。

「無理を言いたくない」なんて願いながら、そんなの綺麗事だと嘲笑うのは醜悪な本心。

抑えられたら一番良いのに、その実抑えたくない自分がいるんだ。 


いっそ、アイツの頭の中に、自分しか残らなければ良いのに。


こんな仄暗い感情をアイツにいっそ知られたい、けれど絶対知られたくない。

自分さえ戸惑う感情は、堰を切ったように皆本へと一心に向かう。

己さえ受け止めきれないその奔流。



あのガキ達よりも、誰よりも子供なのは俺だ。



「賢木」

不意にふわりと、頬を掌で挟み込まれる。

「何か難しいこと考えてるだろ」

「べ、別に何も…」

「ウソツキ」

皆本が苦笑しつつ、俺の眉間に人差し指で触れた。

「眉間に皺寄ってる」

「!!」

そのまま、唇でちょんとそこに接吻されて、俺は瞬間的に固まった。

涙が出るほど優しい温もりに、強張った心が解けていく。

「今回のことは僕が悪いんだから、賢木が悩まなくって良いのに」

「忙しい中無理にスケジュール組んだのは、俺だろ?」

「あのさ、行くって決めたの、僕だけど」

もう黙ってくれとばかりに、今度は額に与えられる接吻。

「今度は僕が計画するから、もう少しだけ待ってくれる?」




ああ、やっぱり自分は本当に子供で。

年下の皆本にべたべた甘えて。

「なんか、賢木ってアイツらより結構子供だよな」

くすくす笑われて、俺は頬に熱が籠もるのを自覚した。



ひたすら格好悪い。

よりによって、好きでたまらない相手に指摘されると恥ずかしさが倍増する。


「大丈夫。3人が4人に増えたって、子守の手間は変わらないよ」

おい、そこはちょっと聞き捨てならない。

「子供なのは自覚してるけど、俺そのポジションか?!」

「良かった、そこ否定しなかったらどうしようかって思った」

悪戯っぽく笑う彼には本当に敵いそうもない。

「するに決まってンだろ!!」

「うん。ちゃんと否定してくれて…ありがとう」

小さな小さな呟きに、気持ちごと全部掬いあげられる。

「ごめんな」

せめて心からの謝罪と、これからもかけてしまうだろう迷惑の前払いとして。

「いいよ、慣れてるから」

ほんの少し可愛くないことを言う年下の恋人に、俺は深く口付けたのだった。



終わり